相続税対策の盲点?貸家建付地の「一時的な空室」期間と賃貸割合が評価額に与える影響

親から賃貸アパートを相続したものの、一部に空室がある。
このままだと「貸家建付地」の評価減が受けられず、相続税が高額になってしまうのではないか。
そんな不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事をお読みいただければ、以下の点が明確になります。

  • 貸家建付地の評価で「一時的な空室」と認められる具体的な条件
  • 税務署が判断する空室期間の目安と、期間以外の重要ポイント
  • 相続税の評価額に直結する「賃貸割合」の正しい計算方法
  • 税務調査で有利になるための客観的な証拠の集め方

読み終える頃には、ご自身の状況を客観的に判断し、相続税申告に向けて何をすべきかが具体的に理解できるようになるでしょう。

目次

貸家建付地とは?相続税が安くなる理由

貸家建付地(かしやたてつけち)とは、ご自身が所有する土地の上に、アパートやマンションといった賃貸用の建物を建てて活用している土地のことです。
この貸家建付地は、相続税を計算する際に評価額が低くなるという大きなメリットがあります。

なぜなら、その土地には入居者(賃借人)がいるからです。
入居者がいることで、土地の所有者は自分の都合だけで自由にその土地を売却したり、自分で使ったりすることが難しくなります。
このような利用上の制約がある分、自由に使える更地(自用地)に比べて財産としての価値が低いとみなされ、結果として相続税評価額が減額されるのです。

【基本】なぜ空室があると相続税に影響?貸家建付地の評価の仕組みと「賃貸割合」の重要性

貸家建付地の評価が下がる仕組みは、相続税対策として非常に有効です。
しかし、相続のタイミングで物件に空室があると、この評価減のメリットを最大限に受けられない可能性があります。
まずは、評価額が決まる基本的な計算式と、空室がなぜ重要なのかを見ていきましょう。

貸家建付地の相続税評価額は、以下の計算式で算出されます。

貸家建付地評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

この式に出てくる各項目の意味は、以下の表の通りです。

項目概要誰が決めるか
自用地評価額他人の権利(借地権、賃借権、借家権等)による制約がない場合の評価額国税庁(路線価や固定資産税評価額を基に計算)
借地権割合土地の権利のうち、借地権が占める割合国税庁(地域ごとに 30%~90% の範囲で設定)
借家権割合建物の権利のうち、借家権が占める割合国税庁(全国一律で 30%)
賃貸割合建物全体のうち、実際に賃貸されている部分の割合物件の状況によって変動

借地権割合や借家権割合は国が定めた数値ですが、賃貸割合は相続開始時点の入居状況で決まります。
もし空室があれば賃貸割合は100%を下回り、括弧の中の数字が小さくなるため、結果として土地の評価額が上がってしまいます。

「一時的な空室」と認められるための5つの判断基準【国税庁の見解】

では、相続開始時に空室があれば、必ず評価額は上がってしまうのでしょうか。
実は、その空室が「一時的なもの」と認められれば、賃貸中として計算することが可能です。
国税庁は、「一時的な空室」かどうかを判断するにあたり、特定の要素を総合的に見て判断する、という見解を示しています。
税務署が「一時的な空室」と認めるかどうかは、以下の 5 つのポイントを総合的に見て判断されます。
単に空室期間の長さだけで機械的に判断されるわけではない、という点が重要です。

判断ポイント具体的な確認内容
1. 継続的な賃貸実績その部屋が、過去にわたって継続的に賃貸物件として使われてきた実績があるか。
2. 速やかな募集活動前の入居者が退去した後、すぐに次の入居者を探す活動(広告掲載など)を始めていたか。
3. 他の用途への不使用空室の期間中、所有者の居住用や物置など、賃貸以外の目的に使っていなかったか。
4. 一時的な空室期間空室の期間が、相続開始を挟んで一時的(例:1 ヶ月程度)であったか。※あくまで目安
5. 課税時期後の賃貸状況相続開始後、合理的な期間内に新たな賃貸契約が結ばれ、それが安定的な賃貸借契約であること。

これらの基準は、あくまで「きちんと賃貸経営を続ける意思があったかどうか」を客観的に判断するためのものです。
そのため、後のセクションで解説する「客観的な証拠」が重要になります。

判例から学ぶ「一時的な空室」が認められる・否認される分かれ道

「空室期間は1ヶ月以内でなければならないのか?」という疑問は、多くの方が抱くところです。
しかし、過去の裁判例・裁決を見ると、空室期間の長短が判断の最も重要な要素であることは確かです。
具体的な状況によって結論が異なる場合があることもわかります。
ここでは、実際の裁判例(大阪地裁・高裁)と2件の裁決をもとに、何が判断の分かれ目になったのかを解説します。

 一部認容
平成28年12月7日 裁決
全面否認(裁判所)
大阪地裁H28年10月・高裁H29年5月 判決
全面否認(審判所)
平成26年4月18日 裁決
物件概要木造2階建て共同住宅3棟(本件1〜3貸家)賃貸マンション8棟A〜H棟集合住宅複数棟・戸建住宅
申告上の賃貸割合(主張)100%100%100%
認定された賃貸割合本件1貸家のみ1室分加算(残室は入居実績ベース)
本件2・3貸家:入居実績ベース
入居実績ベース(空室は全て除外)入居実績ベース(空室は全て除外)
空室期間(認容)約1.5か月(本件1貸家 1室のみ)
空室期間(否認)最短 約5か月〜(残り全室)最短 5か月〜最長 59か月最短 4か月超〜最長 8年以上
主な主張改修工事(本件改修工事)による一時的な空室。工事中も賃貸業務を継続継続的に賃借人を募集しており、貸家としての収益資産の実態があるアパート供給過剰などの社会情勢を斟酌すべき。維持管理・募集活動を継続
審判所・裁判所の判断約1.5か月の1室のみ「一時的」と認定
改修工事の事情を考慮しても5か月超の空室は否認
最短5か月でも「課税時期前後の例えば1か月程度」の水準を超えており、一時的とはいえないと判断相続直後に入居があった室でも相続開始前7か月超の空室があれば否認。社会情勢論も退けた
判断の決め手空室期間の長短が依然として最重要。約1.5か月は例外的に認容5か月以上の空室は、募集活動の有無にかかわらず「一時的」の範囲を超えると明示維持管理・募集活動の事実があっても、4か月超の空室期間では認められない
結果一部取消し(1室分のみ認容)棄却(全面否認)棄却(全面否認)

【一部認容ケース】1室のみ「一時的」と認められた事例(平成28年12月7日裁決)

この事例では、3棟の共同住宅(本件1〜3貸家)の評価が争われました。
本件1貸家には9室の空室がありましたが、そのうち空室期間が約1.5か月の1室(○号室)のみ「一時的空室」と認められ、賃貸割合の算定に含めることが認められました。

一方、残りの8室(最短で約8か月)、本件2貸家の6室(最短約5か月)、本件3貸家の3室(最短約11か月)は、全て「一時的」には当たらないと判断されました。

請求人は「改修工事(本件改修工事)による一時的な空室であり、賃貸業務は継続していた」と主張しましたが、審判所は「工事の事情を考慮しても、最短でも5か月を超える空室は一時的とは認められない」と明確に述べています。

【全面否認ケース①】最短5か月でも全棟全面否認(大阪地裁H28年10月・高裁H29年5月判決)

この事例は裁判所で争われたケースで、賃貸マンション8棟(A棟〜H棟)を相続した原告が、全ての空室部分を「一時的空室」として賃貸割合100%を主張しました。

しかし、空室期間は最短でも5か月(A棟・B棟の一部)、最長は59か月(約5年)に及ぶものがありました。
大阪地裁・高裁ともに、「5か月以上の空室について、引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在したとは認められない」として請求を棄却。

原告は「継続的に賃借人を募集しており貸家としての収益資産の実態がある」と主張しました。
しかし、高裁は「賃貸されていない期間(空室期間)の長短が最も重要な要素」であると明確に述べ、この主張を退けました。

棟ごとの認定賃貸割合は上表のとおりで、空室率の高いA棟では約33%、E棟では約48%まで下がっています。

総室数空室数空室期間(最短)空室期間(最長)認定賃貸割合(約)
A棟9室7室5か月39か月33%
B棟15室3室5か月58か月79%
C棟43室14室15か月43か月67%
D棟10室3室45か月59か月74%
E棟27室14室12か月50か月48%
F棟9室2室21か月58か月77%
G棟42室16室27か月59か月61%
H棟36室14室10か月59か月61%

※ 賃貸割合は床面積ベースで算定。室数ベースと一致しない場合あり。

【全面否認ケース②】相続直後の入居があっても否認(平成26年4月18日裁決)

この裁決では、ある室(M○号室)が相続開始日のわずか数日後に新たな賃貸契約が締結されたにもかかわらず、「一時的空室」として認められませんでした。
その理由は、相続開始日時点で既に7か月以上の空室が続いており、空室期間の合計が約8か月に達していたためです。

審判所は、「維持管理の状況や賃借人の募集状況等の諸事情を考慮したとしても、一時的に賃貸されていなかったとは認められない」と判断。

また、「アパート供給過剰などの社会情勢を考慮すべき」との主張に対しては、「空室が埋まりにくい状況は、減価を否定する要因となることこそあれ、空室部分に減価を認める理由とはならない」と明確に退けています。

まとめ:「期間」は依然として最重要。「努力」や「社会情勢」だけでは足りない

3つの事例から導かれる実務上のポイントは以下のとおりです。

  • 約1.5か月 → 例外的に「一時的」と認められる可能性がある
  • 4〜5か月以上 → 募集活動・維持管理の実績があっても、原則として認められない
  • 8か月以上 → 相続直後に入居があっても、空室期間の合計が長ければ認められない

「賃貸目的で建てた建物だから」「継続して募集をしていたから」という事情は考慮されますが、空室期間の短さが認められるための大前提です。

また、申告にあたっての姿勢も重要です。
一時的な空室があると判断した場合でも、一律に賃貸割合を100%として申告するのではなく、空室の状況を自ら反映させた賃貸割合で申告することを検討してください。
「空室を認識した上で適切に評価している」という姿勢を申告書に示すことで、税務当局に対して誠実な申告であることが伝わり、結果として否認されるリスクを抑えられる場合があります。
主張と証拠が噛み合わないまま100%申告をして後から否認されるより、根拠を持って保守的に申告した方が、調査への対応もしやすくなります。

税務署に認めてもらう!「一時的な空室」を証明する客観的証拠資料リスト

先の判例からもわかるように、税務署に対して「一時的な空室」と主張するためには、口頭での説明だけでは不十分です。
「賃貸経営を続ける強い意思があり、そのために具体的な行動をしていた」ことを示す客観的な証拠を、日頃から整理しておくことが何よりも重要です。
具体的には、以下のような資料が有効です。

証拠のカテゴリ具体的な資料の例
1. 入居者募集活動の証拠- 不動産仲介会社との媒介契約書
- 賃貸情報サイトの掲載ページのスクリーンショット
- 賃貸情報誌やチラシなどの広告物
- 内覧希望者とのやり取りの記録(メールなど)
- 入居申込書
2. 賃貸意思の裏付け資料- 物件取得時の契約書(賃貸用であることがわかるもの)
- 賃貸管理会社との管理委託契約書
- 賃料を改定した際の交渉記録や覚書
- 建物の修繕履歴や清掃記録
3. 賃貸状況を示す資料- 過去の入居者との賃貸借契約書
- 不動産所得に関する過去の確定申告書
- 賃料の入金が確認できる通帳の写し

これらの資料は、万が一の税務調査の際に、ご自身の主張を裏付ける強力な武器となり得ます。
空室が発生したら、意識的に記録を残すようにしましょう。

【状況別】ここが違う!「一時的な空室」と判断されにくい要注意ケース

これまで解説してきた「一時的な空室」の考え方は、全ての賃貸物件に同じように適用されるわけではありません。
物件の種類や状況によっては、判断がより厳しくなるケースがあるため注意が必要です。

戸建て賃貸・ワンルームマンションなど単独戸物件の場合

アパートやマンションのように複数の部屋がある物件は、一部が空室でも建物全体としては賃貸事業が継続していると見なされやすいです。
しかし、戸建て賃貸や区分所有のワンルームマンションは、建物全体が 1 つの賃貸単位です。
そのため、そこが空室になると「賃貸事業そのものが停止している」と判断されるリスクが高まります。
この場合、土地の利用制限がないとみなされ、貸家建付地ではなく更地(自用地)として評価される可能性があり、評価額が大幅に上がってしまうため、特に迅速な対応が求められます。

新築・大規模改修後でまだ入居実績がない場合

新築物件や大規模なリフォームを行った直後の物件も注意が必要です。
国税庁が示す判断基準の一つに「継続的に賃貸されてきた実績」がありますが、新築物件などにはこの実績がありません。
そのため、竣工してから最初の入居者を募集している期間に相続が発生した場合、原則として「一時的な空室」と主張することは難しくなります。
竣工後は速やかに、かつ積極的に募集活動を開始し、その証拠を確実に残しておくことが不可欠です。

小規模宅地等の特例と「一時的な空室」の関係

貸家建付地の評価減に加えて、相続税には「小規模宅地等の特例」という強力な節税制度があります。
賃貸物件の敷地(貸付事業用宅地等)であれば、200平方メートルを上限として評価額をさらに50%減額できます。

この特例においても「一時的な空室」は問題になりますが、貸家建付地の評価(賃貸割合)とは意味合いが異なります
この違いを理解しておくことが重要です。

「一時的な空室」の扱いの違い

 貸家建付地の評価(賃貸割合)小規模宅地等の特例
空室の影響空室があると賃貸割合が下がり、減額幅が比例的に小さくなる空室があっても原則として特例自体は適用できる(全か無かの判断)
空室の扱い一時的空室と認められれば、賃貸割合に算入できる賃貸割合のような按分はなく、「貸付事業を営んでいるか否か」で判断する
空室のリスク空室が多いと評価減が少なくなる全室空室など事業が停止しているとみなされると特例そのものが使えなくなる

実務上の重要ポイント:貸家建付地より緩やかな判断

実務上、注目すべき点があります。
貸家建付地の評価で「一時的空室」と認められず自用地評価とされた場合でも、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)は適用できるケースがあります。

これは、両者の判断基準が異なるためです。
貸家建付地の評価では「課税時期において借家権の制約が実質的に存在するか」という厳格な基準が用いられるのに対し、小規模宅地等の特例では「貸付事業を継続して営んでいたか」という観点から、より緩やかに判断されます。

たとえば、空室期間が5か月で貸家建付地の評価減(賃貸割合への算入)は認められなかったとしても、その間も賃貸業務の継続が認められれば、特例の適用対象となる「貸付事業用宅地等」には該当しうるということです。

空室があって相続税の評価が厳しくなりそうな場合でも、貸家建付地の評価と小規模宅地等の特例は別々に検討することが大切です。
一方が認められないからといって、もう一方も諦める必要はありません。

3年縛りにも注意

小規模宅地等の特例には「3年縛り」があります。
相続開始前3年以内に新たに貸付を始めた土地は原則として特例の対象外となります。

長期間の空室があった物件は、その間「貸付事業が停止していた」とみなされ、再び賃貸を開始した時点から3年縛りのカウントが始まるリスクがあります。
空室期間をいたずらに長引かせないことは、貸家建付地の評価だけでなく、この特例を守る意味でも重要です。

なお、3年を超えて「事業的規模」(目安:アパートおおむね10室以上など、いわゆる5棟10室基準)で貸付を行っている場合は、3年以内に始めた土地でも例外的に特例の対象となります。

まとめ:空室があっても諦めない!相続税評価で損しないための3つのアクション

今回は、貸家建付地の相続税評価における「一時的な空室」の考え方について、具体的な判断基準や判例、注意点を解説しました。
重要なポイントは、空室期間の長さだけで判断されるのではなく、「賃貸を続ける意思」を客観的な証拠で示せるかどうかです。
もし、物件に空室があって不安に感じているなら、今日から以下の 3 つのアクションを始めてみてください。

  1. 募集活動の証拠を今すぐ集める・記録する
    不動産会社との契約書や広告の履歴など、本記事で紹介した「客観的証拠資料リスト」を参考に、手元にある資料を確認・整理しましょう。
  2. 空室が長引きそうなら専門の税理士に相談する
    ご自身のケースが「一時的な空室」と認められるか判断に迷う場合や、空室が長期化しそうな場合は、早めに相続に強い税理士に相談することをおすすめします。
  3. 日頃から管理会社と連携し、空室期間を短縮する
    最も確実な対策は、そもそも空室期間を短くすることです。信頼できる管理会社と連携し、適切な賃料設定や募集戦略を立てることが、将来の相続税対策にもつながります。

空室があるからといって、すぐに評価減を諦める必要はありません。
正しい知識を身につけ、適切な準備をすることで、大切な資産を賢く次世代に引き継ぎましょう。