【非公開裁決】不動産投資の旅費交通費・セミナー代・物件見学費用は「領収書だけ」では経費にならない
不動産投資を行っている30〜40代のサラリーマン投資家の方の中には、「どこまで経費にできるのだろう」と悩んだことがある方も多いのではないでしょうか。
物件見学のための交通費や情報収集のセミナー代など、不動産投資では様々な場面で費用が発生します。
実際、「どこまで経費として認められるのかわからない」というご相談は少なくありません。
多くの記事では、「不動産投資に伴う交通費やセミナー代は経費になります」と説明されています。
もちろん、それ自体は誤りではありません。
しかし、実際の税務調査では、領収書を保管しているだけでは経費として認められず、否認された結果、追徴課税を受けているケースもあります。
本記事では、国税不服審判所の非公開裁決(大裁(所)令6第32号・令和7年1月17日裁決・審査請求はいずれも棄却)をもとに、「どのような場合に経費として認められ、どのような場合に否認されるのか」を、実際の裁決事例に沿って分かりやすく解説します。
この事案では、サラリーマン投資家が旅費交通費やセミナー代、物件見学費用などを経費として申告しましたが、その多くが否認され、最終的に納税者側の主張は認められませんでした。
不動産投資の経費を適切に計上するうえで、参考になる点が多い裁決です。
目次
【結論】経費になる「余地」はあるが、立証できなければ「存在しないもの」として扱われる
結論から言うと、不動産投資に伴う旅費交通費、セミナー代、物件見学費用は、性質としては経費になり得ます。
ただし、何でも自由に経費にできるわけではありません。
その支出が「不動産賃貸業という業務の遂行上、直接必要なものであったか」を客観的に立証できることが大前提となります。
ここで最も重要なのが、立証責任の考え方です。
本裁決は、必要経費の考え方について次のように述べています。
課税標準たる所得の存在とその額については課税庁に立証責任があるものの、必要経費は所得金額を算定する上での減算要素であり、納税者に有利に働く事情である。
したがって、納税者が必要経費の内容を具体的に明らかにした上で、その必要経費が存在することを合理的に推認させるに足りる程度の具体的な立証を行わない限り、当該必要経費は存在しないとの事実上の推定が働く、というものです。
<審判所の判断(引用)>
必要経費の存否及びその額は、所得金額を算定する上での減算要素であり、納税者に有利に働く事情であることを併せ考えれば、納税者において、必要経費の内容を具体的に明らかにした上で、当該必要経費が存在していることを合理的に推認させるに足りる程度の具体的な立証を行わない限り、当該必要経費は存在しないとの事実上の推定が働くものというべきである。
つまり「領収書を残しておけば安心」ではありません。
業務との直接の関連性と必要性を第三者に説明できる具体性がなければ、たとえ領収書があっても「必要経費は存在しない」と推定されることになります。
ここが、よくある記事と大きく違うところです。
不動産投資における「必要経費」の考え方
所得税法第37条第1項は、必要経費に算入すべき金額を、総収入金額に係る売上原価その他その総収入金額を得るため直接要した費用の額、およびその年の販売費・一般管理費その他その所得を生ずべき業務について生じた費用の額と定めています。
不動産投資で言えば、家賃収入を得るために直接的に貢献した支出かどうかが判断基準です。
本裁決の法令解釈部分は、ある支出が必要経費として控除され得るためには、客観的にみてそれが業務と直接関連を持ち、かつ業務の遂行上必要な支出であることを要し、その判断は業務内容などの個別具体的な事情に即して社会通念に従って実質的に行われる必要がある、としています。
さらに、業務遂行上必要か否かの判断は、単に納税者の主観的判断によるのではなく、客観的に通常必要な経費として認識できるものでなければならない、と明確に述べています。
「自分は事業のためだと思っている」という主観では足りません。
税務調査では、まさにここを突かれます。
【重要】家事関連費という壁
物件見学費用や自宅家賃の按分を考えるとき、必ず立ちはだかるのが「家事関連費」の問題です。
所得税法第45条は、衣食住費・教養費・娯楽費などの家事費は必要経費に算入しないと定めています。
そして、事業と私生活が混ざった家事関連費については、原則として必要経費になりません。
例外的に必要経費として認められるのは、次のいずれかを満たす部分だけです。
①家事関連費の主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合の、その部分に相当する経費
②青色申告者について、取引の記録等に基づいて、業務の遂行上「直接」必要であったことが明らかにされる部分に相当する経費
ポイントは「明らかに区分できる」「直接必要であったことが明らかにされる」という部分です。
「なんとなく3割」では通りません。
その割合の根拠まで示せて、初めて認められます。
物件見学費用・旅費交通費で否認された実例と、そこから導く具体ルール
本裁決で請求人が計上していた交通費・物件見学費用の多くは、次の理由で否認されました。
逆に言えば、この否認理由を裏返せば、そのまま「認められるための条件」が見えてきます。
否認理由その1:領収書裏面の「物件見学タクシー代」等のメモだけでは足りない
請求人は、提出した領収書の裏面に「物件見学タクシー代」や「不動産打合せ○○様」などと記載していました。
ところが審判所は、当該記載のみでは本件不動産賃貸業と直接の関係を有し、かつ業務の遂行上必要な支出であることが明らかであるとは認められない、と判断しました。
裏面に何の記載もない領収書については、具体的内容が不明であるとして、なおさら認められませんでした。
ここから導かれる実務ルールは、単語レベルのメモでは不十分だということです。
認められるためには、いつ・どの物件を(所在地)・どういう検討状況で見学したのか、打合せなら相手方の氏名や会社名・その目的まで、第三者が読んで業務との関連を追跡できるレベルの記録が必要になります。
<裁決から逆算した「残すべき記録」チェックリスト>
①見学物件の所在地・物件名(「どの物件か」を特定できないと業務関連性を示せない。)
②検討状況(購入検討・比較メモ等。単なる観光でないことを示す。)
③打合せ相手の氏名・会社名(相手不明では業務打合せと認められない。)
④打合せの目的・内容(「打合せ」の一言では内容不明とされる。)
⑤移動区間(出発地〜目的地。交通費の必要性を示す。)
⑥日付入りの現地写真(客観的な裏付けになる。)
否認理由その2:家族同行の遠方視察は「家族旅行」の性質を否定できない
請求人は遠方の物件視察に妻子を同行させ、その宿泊費(利用人数「2」の領収書が残っていた)を経費計上していました。
具体的には、平成31年4月13日〜14日にかけて遠方の物件所在地へ妻子とともに出向き、その際の宿泊費26,016円を経費に算入していたものです。
本人は「物件担当者との打合せや共用部分の清掃という業務のために行った」と主張しました。
しかし審判所は、宅配ロッカーの打合せやマンション担当者との打合せに妻子が同席する必要があったとは考え難く、共用部分の清掃も委託契約上は管理会社の業務であって請求人が行う必要があったとは認め難い、と一つひとつ丁寧に否定していきました。
そのうえで、宿泊を伴う訪問について、その間に不動産賃貸業に係る業務を行っていたことを考慮しても家族旅行としての性質を持つことは否定できないとし、家事関連費として認められるための立証(前述の①または②)もされていないとして、当該宿泊費を全額否認しました。
遠方物件を家族旅行や帰省と兼ねて視察するのは、税務調査で最も疑われやすいグレーゾーンです。
旅費の全額を経費にすることはできず、事業に直接関係があると認められる範囲内でのみ計上可能である点を、この裁決は改めて示しています。
否認理由その3:どこからどこまでの移動か特定できない交通費
鉄道やタクシーの領収書について、審判所は、裏面に記載がない、または「移動交通費」とあるのみで、具体的にどこからどこまでの移動に要した費用かが明らかにされていない、と指摘しました。
加えて、訪問自体が家族旅行の性質を持つ以上、提出された交通費のすべてが業務のために要したものと認めるのは困難で、業務遂行上必要である部分を明らかに区別することもできない、としました。
では、認められるためにどう記録するか
以上の否認事例を裏返すと、旅費交通費・物件見学費用を通すための要件が見えてきます。
事業に関連する移動であれば、投資対象物件の選定・内覧、周辺環境の現地調査、融資相談のための金融機関訪問、契約手続きのための不動産会社・管理会社訪問、既存物件の巡回や修繕確認などに要した電車代・バス代・タクシー代・航空運賃・高速料金・レンタカー代・宿泊費が、旅費交通費として計上可能です。
ただし、それを経費として維持するには、次のレベルの証拠が要ります。
- 日付、出発地と目的地(区間)、目的(物件名・所在地・検討状況、または訪問先と打合せの相手方・目的)を、支出ごとに記録すること
- 領収書が出ない電車・バス代は、日付・交通機関・乗車区間・運賃・訪問先や目的を記入した旅費精算書を自作し、これを領収書代わりの証拠書類として保管すること
- 家族を同行させた場合は、家族分と本人の業務遂行上必要な部分を明確に区分し、なぜ同行が業務上必要だったのかを説明できるようにしておくこと(説明できないなら、その分は経費から外すのが安全です。)
勘定科目と家事按分
記帳の際の勘定科目は、一般的に「旅費交通費」を使用します。
近場の移動でも遠方の出張でも、事業目的の移動に関する費用はこの科目にまとめ、宿泊を伴う視察でも交通費と宿泊費をまとめて処理するのが基本です。
自家用車を使う場合、ガソリン代・高速代・自動車保険料などの車両関連費用も経費にできる可能性がありますが、プライベートと兼用なら全額は不可で、事業使用割合だけを抜き出す「家事按分」が必須です。
もっとも確実なのは走行距離記録簿の作成で、日付・出発地・目的地・走行距離・目的(物件名や訪問先)を記録します。
総走行距離10,000kmのうち事業目的が2,000kmなら事業割合は20%となり、年間の車両費用の20%を計上します。
この按分割合の「合理性を裏付ける記録」がないと、後述の自宅家賃按分と同じ理由で否認されうる点に注意してください。
【裁決事例に学ぶ】「なんとなく30%」は通用しない。
家事按分で特に危険なのが、根拠のない按分割合です。
本裁決では、納税者が自宅家賃・光熱費・携帯電話料金の「30%」を事業用として計上していましたが、審判所は「面積按分の割合が正しいことを裏付ける証拠の提出がない」として否認しました。
走行距離記録簿にせよ面積按分にせよ、その割合を第三者が検証できる客観的記録がなければ、按分そのものが認められません。
「30%」といったキリのよい数字は、根拠を示せなければむしろ疑いを招きます。
セミナー代・勉強会代で否認された実例
本裁決では、請求人が「不動産投資を行う上で必要な情報収集や勉強のために勉強会や会合に参加した」として計上した費用(数年分で合計100万円超)も、ほぼ全額が否認されました。
否認の決め手:勉強の「具体的内容」が不明で、大半が飲食店への支払い
審判所は、提出された領収書の記載からは情報収集や勉強の具体的内容が全く不明である上、その大半が飲食店および食料品店への支払いであり、客観的にみて請求人の業務と直接関連を持ち、業務遂行上必要な支出であるとは解し難い、と判断しました。
「今後、不動産賃貸を仕事のメインにしていく」という将来展望に有益な可能性があるにとどまり、客観的に業務と直接の関係を有する支出とは認められない、とも述べています。
押さえておきたいのは、「将来役に立つかもしれない」は経費の理由にならない、という点です。
何を学び、それが自分の物件経営にどう直結したのかを、具体的に記録・説明できるかが分かれ目になります。
領収書にも本人のノートにも中身の記載がなかったことが、この事例で否認された要因でした。
ここから、経費になるセミナー代とならないセミナー代の分岐点が見えてきます。
認められやすいのは、最新の不動産市場分析、賃貸経営の実務、税金・法律の知識など、収益向上やリスク管理に直結する内容を学ぶセミナーです。
ただし、それすら「何を学び、それが自分の賃貸業にどう役立つのか」を記録・説明できなければ通りません。
逆に、実態が会合での飲食に近いもの、内容を説明できないもの、一般的なビジネススキルやモチベーション向上の自己啓発、資格取得スクール費用(個人の能力向上とみなされやすい)は、否認リスクが高いといえます。
証拠書類の残し方
セミナー代は、領収書を保管しているだけでは不十分です。
案内状・パンフレット・当日のアジェンダ・配布資料をセットで保管し、さらに当日の手書きメモや「この知識を今後の物件選びにどう活かすか」といった簡単なレポートを残しておくと、事業関連性を主張する根拠になります。
本裁決の教訓を踏まえれば、「これがあれば望ましい」程度ではありません。
「これがないと否認される」くらいの心構えで準備すべきです。
具体的には、領収書+案内状+メモ+活用レポートの4点セットを徹底することで、勉強代を経費として説明しやすくなります。
なお勘定科目は、事業に関連するセミナー参加費や書籍代は「研修費」「新聞図書費」を用いるのが一般的で、飲食を伴う情報交換会などは「交際費」になる場合もあります。
ただし、その飲食が業務遂行上必要だったことを説明できなければ、科目を交際費にしたところで否認される点は次項の通りです。
打合せの飲食費・交際費はどこまで認められるか
本裁決では、飲食店を利用した「本件マンション担当者打合せ」「○○担当者打合せ」等の領収書についても、各領収書には「打合せ」との記載があるのみで具体的な打合せ内容が明らかでない上、そもそも飲食を伴う打合せを行うことが業務遂行上必要であったとは考え難い、として否認されました。
不動産会社・金融機関・管理会社の担当者との打合せ飲食費は、交際費として認められる余地はあります。
しかし、私的な飲食との区別が曖昧になりやすいため、領収書の裏などに「いつ・どこで・誰と(氏名や会社名)・何の目的で」会食したのかを正確に記録することが不可欠です。
本裁決は、「打合せ」という一語だけでは足りず、飲食を伴う必要性まで説明できなければ通らないことを明確にしています。
ポイントは「必要性」です。
連絡が電話やメールで足りる相手と、わざわざ飲食を伴う打合せをする必要性自体が疑われました。
飲食費を交際費にするなら、なぜ飲食の場が必要だったのかという必要性まで説明できなければ、否認は避けられません。
自宅家賃・光熱費・携帯代の「30%按分」が否認された理由
自宅経費按分についても、本裁決は厳しい判断を示しました。
根拠のない「30%」という割合
請求人は、自宅の一室を事務所として使用し、入居者募集のチラシ作成などの業務を行っているとして、自宅家賃・電気ガス水道料・携帯電話料の30%相当額を経費に計上していました。
しかし審判所は、自宅にはこの期間、請求人の妻と子供3人が居住していたことなどから、仮に自宅を業務に使っていたとしても当該支出は家事関連費に該当するとした上で、①自宅でチラシ作成等の業務を行っていることを裏付ける客観的な証拠がなく、②面積按分の割合(30%)が正しいことを裏付ける証拠の提出もない、として、業務遂行上直接必要な金額を明らかにしたとはいえない、と否認しました。
この納税者の場合、自宅家賃だけで年間約220〜230万円あり、その30%を計上していました。
「30%」という数字に裏付けがなければ、それは根拠のない見込みの割合にすぎない、というのが審判所の立場です。
按分するなら、業務専用スペースの面積・使用実態・算定根拠を書面で示せるようにしておく必要があります。
「前年まで認められていた」は通用しない
請求人は、前の年分まで同じ30%按分を申告して必要経費として認められていたのに、急に認められなくなるのは継続性の観点から疑念がある、とも主張しました。
これに対し審判所は、原処分庁が確定申告書を受理したことは、その申告内容を是認したとの意味を含むものではない、と一蹴しています。
過去に申告が通っていたことは、その支出が適法な経費であったことの保証にはなりません。
税務署は申告をいったん受け付けるだけで、その内容が正しいと認めたわけではありません。
数年分をまとめて調査・更正されれば、過去に通っていた按分もまとめて否認され得るのです。
自宅経費按分を維持したいなら、業務専用スペースの使用実態(面積・用途・使用頻度)を示す資料と、按分割合の算定根拠(事務所使用面積÷自宅全体面積などの計算過程と、その面積の裏付け)を、客観的な証拠とともに準備しておく必要があります。
他にもある:経費にできるもの・できないもの
旅費交通費やセミナー代以外にも、不動産投資には様々な経費があります。
まず、一般的に問題なく認められる主な費用は次の通りです。
- 固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税などの租税公課
- 物件の火災保険料・地震保険料(複数年一括払いはその年の分だけ計上)
- 建物・設備の減価償却費(キャッシュアウトを伴わない効果的な節税項目)
- 管理会社への管理委託費。不動産投資ローンの利息部分(元本返済部分は経費にならない)
- 設備修理や退去後の原状回復にかかる修繕費
- 賃貸仲介会社への広告料(AD)や仲介手数料
- 税理士・司法書士への専門家報酬。事業用部分の通信費(按分が必要)
- 清掃用具・事務用品・10万円未満の備品などの消耗品費
なお本裁決でも、原処分庁は租税公課・減価償却費・借入金利子といった費目そのものが明確で証拠のある費用は必要経費として認めています。
否認されたのは、あくまで業務関連性を立証できなかった旅費・飲食・勉強会費・按分経費等でした。
ただし本裁決の教訓を踏まえれば、これらも「業務との関連が客観的に説明できること」が前提です。
たとえば消耗品費でも、業務用か私用か区別できなければ否認され得ます(本裁決でも、物品購入が業務専用であったか明らかでない、業務に必要な部分を明らかに区分できない、として否認された支出があります。)。
修繕費と資本的支出
物件の修繕費用は、内容により「修繕費」として一括経費にできるか、「資本的支出」として減価償却するかが分かれます。
通常の維持管理や退去後の壁紙張り替えなど原状回復費用は修繕費、和室から洋室への間取り変更やユニットバス交換など建物の価値や耐久性を高める費用は資本的支出です。
特例として、1件の修理・改良が20万円未満、またはおおむね3年以内周期の修理であれば、内容にかかわらず修繕費として処理できます。
経費にできないNG費用
事業に関係しているように思えても認められない支出があります。
不動産会社との面談用に買ったスーツ代や時計代は個人の生活費(家事費)、健康維持のスポーツジム会費は個人の娯楽費に該当します。
そして、固定資産税は経費になりますが、不動産投資の利益に対してかかる所得税・住民税は経費計上できません。
税務調査を恐れないための経理・証憑管理術
本裁決の請求人が敗れた最大の要因は、経費の内容を具体的に立証できなかったことに尽きます。
逆に言えば、日々の記録と書類管理を怠れば、いざというとき身を守れません。
領収書・レシートの保管と、記録の「具体性」
領収書は、月ごとにノートに貼るかクリアファイルに分け、経費の種類別(交通費・交際費・消耗品費など)に整理しておくと集計がスムーズです。
法定保存期間は青色申告で原則7年間、白色申告で5年間です。
ただし本裁決が示すのは、「保管」だけでは足りず「具体性」が必要だということです。
裏面のメモは単語で済ませず、物件名・所在地・相手方・目的・検討状況まで書いておきます。
この手間の有無が、調査で経費が認められるかどうかを大きく左右します。
帳簿を必ず作る
本裁決では、請求人が調査開始後から審査請求までの間、現金出納帳や経費帳など必要経費の支払内容が分かる帳簿を一切提出していなかったことが、繰り返し不利に働きました。
会計ソフトを使えば簿記の深い知識がなくても帳簿は作れます。
帳簿の不提出は、それ自体が立証の放棄とみなされかねません。
意外に見落とされがちですが、必要経費を守る土台は帳簿です。
青色申告の承認を受けていたにもかかわらず帳簿を提出しなかった点を、審判所は明確に不利な事実として指摘しました。
領収書の束だけを積み上げても、それが事業のどの活動に対応するのかを示す帳簿がなければ、税務署は業務関連性を確認できません。
現金出納帳・経費帳をきちんとつけ、いつでも提示できる状態にしておくことが、あらゆる証憑管理の前提になります。
電子帳簿保存法への対応
オンライン予約の航空券控えやメールで届く電子領収書など、データで証憑を受け取る機会が増えています。
2024年1月から、電子取引データの電子保存が義務化され、電子取引のデータは紙に印刷するのではなく電子データのまま保存することが必須です。
日付・金額・取引先名で検索できるようファイル名にルールを設けるか、法対応のクラウド会計ソフトで管理しましょう。
適正な「経費率」の目安
家賃収入に対して経費が多すぎると、税務署から不自然に思われる可能性があります。
一般に不動産投資の適正な経費率は家賃収入の15%〜20%程度が目安とされ、これを大幅に超えると私的費用の混入を疑われ調査対象になりやすくなります。
物件購入初年度で諸経費がかさんだ年や大規模修繕を実施した年に一時的に高くなるのは自然ですが、その場合は理由を客観的に説明できる書類(見積書・工事報告書など)をいつでも出せるよう準備しておきましょう。
手続面:調査を「延期してもらえる」とは限らない
本裁決には、経費の話とは別に、サラリーマン投資家が知っておくべき手続面の教訓もあります。
請求人は、体調不良やコロナ禍などを理由に調査の延期を再三求めましたが認められませんでした。
審判所は、国税通則法第74条の9が定めるのは調査開始日時等の変更について「協議するよう努める」義務であって、調査そのものを合理的な理由によって延期する旨の法令上の規定はない、と述べています。
調査を実施すべき時期は、調査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられる、というのが基本的な枠組みです。
さらに審判所は、本人が延期を求めていた時期に実際には勤務先へ出勤し、物件のある地域へ出張して管理会社担当者と飲食までしていた事実などを認定し、「調査に対応できない状態であったとは認めがたい」と判断しました。
体調不良を訴えながら遠方へ出張していたという言動の矛盾が、主張全体の信憑性を失わせたわけです。
調査に対しては、感情的に対応するのではなく、帳簿や証憑を整え、業務との関連性を客観的に説明することが重要です。
また、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならず、証拠収集手続に刑罰法規に触れる、公序良俗に反する、社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法があって初めて取消事由になり得る、というのが審判所の解釈です。
本裁決では、更正通知書を住民登録上の自宅の郵便受けに差し置いた送達も、国税通則法第12条に基づく適法な送達と判断されました。
「体調が悪いから待ってもらえるはず」「連絡しなければ処分は進まないはず」という期待は、法的には裏付けられないということです。
調査の連絡が来たら、必要に応じて延期を相談しつつも、帳簿の提示や説明には誠実に対応することが、結果として自身の立場を守ることにつながります。
まとめ
紹介した裁決(大裁(所)令6第32号・令和7年1月17日)は、サラリーマン投資家の経費計上に対する審判所の考え方を、はっきりと示した事例です。
ポイントは次の三つに集約されます。
- 第一に、必要経費は立証できなければ「存在しない」と推定されること。領収書があるだけ、裏面に単語のメモがあるだけでは足りません。
- 第二に、家族同行の視察や内容不明の勉強会・飲食は、業務との直接関連と必要性を説明できなければ家事関連費として否認されること。
- 第三に、過去に申告が通っていたことは何の保証にもならず、数年分まとめて否認され得ること。
合法な範囲で経費をしっかり計上することと、調査で否認されない備えをすることは、両立します。
むしろ「第三者に説明できる具体的な記録」が、その両方を叶える近道になります。
<チェックリストとしての要旨>
①「経費になる」と「経費と認められる」は違う。
②一言メモや領収書だけでは足りない(物件名・目的・検討状況まで記録する)。
③家族同伴の視察旅行は極めて危険。
④勉強会・研究会の参加費は中身の説明が必須。
⑤按分割合には合理的な根拠を。「なんとなく30%」は通用しない。
⑥過去に通っていた申告は正当性の保証にならない。
⑦帳簿をつけ、調査には証拠をそろえて対応する。

- 税理士・元国税調査官
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税理士登録番号154309 東京税理士会日野支部
東京国税局の調査部に在籍し、大企業を対象とした税務調査を約10年にわたり担当。「税務署はどこを見て、何を指摘してくるのか」を現場で知り尽くした国税OB税理士として、税務署側の視点を踏まえたリスク対策と実践的なアドバイスを行っています。
その後、東京国税局を退職して税理士登録・独立開業。現在は不動産投資家・経営者への税務顧問、法人・個人の税務調査対応、不動産の相続・贈与・譲渡に関する申告業務を専門としています。
自身も区分マンション・アパートへ投資を行う現役の不動産投資家であり、机上の空論ではなく、収益と節税のバランス、資金繰りや投資判断まで踏み込んだ提案ができることを強みとしています。
不動産投資・税務に関する書籍・記事の執筆、金融機関やメディア主催セミナーへの登壇も多数。主な著書に『元国税の不動産専門税理士が教える!不動産投資 節税の教科書』(ぱる出版)などがあります。
