不動産一括購入・売却における土地と建物の価格区分(按分)実務ガイド
不動産を売買するとき、土地と建物をまとめて取引するのはよくあることです。
ただ、総額だけ決めて土地と建物の内訳を曖昧にしたまま進めると、後になって大きな問題になることがあります。
税務上、土地と建物は別の資産として扱われるためです。
この按分割合を決める「区分(按分)」を適切に行わないと、正しい消費税額や譲渡所得の計算ができません。
その結果、税務調査で処理が不適切だと判断され、思わぬ追徴課税を受けかねません。
本記事では、税務調査で否認されないための合理的な価格按分方法や、節税に繋がる税金の計算ルールについて詳しく解説します。
正しい知識を身につけて、安心して取引や確定申告を進める一助にしていただければと思います。
目次
なぜ土地と建物の価格を「区分(按分)」する必要があるのか?
総額さえ分かっていれば十分に思えるかもしれませんが、税金計算の過程では土地と建物の価格を必ず分ける必要があります。
ここでは、なぜ区分が必須となるのかを主な税目ごとに見ていきましょう。
所得税・法人税の取り扱い:減価償却費と譲渡利益への影響
所得税や法人税の計算においても、土地と建物の区別は極めて重要です。
建物は時間の経過や使用によって価値が減少していく「減価償却資産」に該当します。
そのため、建物の取得価額をもとに減価償却費を計算し、毎年の経費(損金)として計上することができます。
これに対して、土地はどれだけ時間が経っても価値が減少しないとみなされるため、減価償却の対象にはなりません。
また、不動産を売却した際に生じる譲渡利益を計算する際にも、土地と建物それぞれの取得費と譲渡対価を算出する必要があります。
取得価額の区分が曖昧だと減価償却費を正しく計上できず、所得税や法人税の納税額にも大きな狂いが生じてしまいます。
消費税の取り扱い:建物のみが課税対象となる仕組み
消費税法上、不動産取引における消費税の取り扱いは、土地と建物で異なります。
土地の譲渡や貸付は、消費という概念になじまないため、消費税が課されない「非課税取引」と規定されています。
一方で、建物の譲渡は「課税取引」に該当し、消費税が課税されます。
つまり土地と建物を一括で売った場合、消費税がかかるのは総額のうち建物部分だけということになります。
土地と建物の価格割合がはっきりしないと、建物の譲渡対価が定まらず、正しい消費税額を計算できません。
税務署から消費税の申告漏れを指摘される原因となるため、明確な区分が求められます。
買主が「建物比率」を高めたくなる3つの動機
土地と建物の区分は、単なる事務手続きではなく、買主の手元に残るお金を大きく左右する要素です。
特に給与所得や事業所得の多い高所得の投資家ほど、建物への配分を厚くしたいと考える傾向があります。
その背景には、大きく3つの理由があります。
第一に、償却による課税所得の縮小効果です。
建物へ多く配分するほど、毎年計上できる減価償却費が膨らみ、不動産から得た利益を圧縮できます。
所得が高い人ほど税率も高いため、課税所得を抑えたときの節税効果は大きく、日々の資金繰りの改善にもつながります。
第二に、保有中と売却時の税率差を活かせる点です。
建物比率を上げると売却時点での未償却残高が減り、譲渡益が膨らんで譲渡課税は増える方向に働きます。
しかし、5年を超えて保有した後に手放す長期譲渡であれば、所得税・住民税を合算した実質的な負担率はおよそ2割にとどまります。
保有期間中は最大5割超の高い税率に対して償却で節税し、出口では低い税率で精算できるので、トータルの税負担を抑えやすいわけです。
第三に、借入金利子の損益通算に関する制約を和らげられる点です。
不動産所得が赤字になった場合、給与などと相殺(損益通算)できますが、土地取得のための借入利子に相当する部分はその赤字から除外されるという規定があります。
融資を使って購入するケースでは、土地への配分を抑えることでこの除外される金額が小さくなり、損益通算の制限を緩和できるのです。
税務上認められる合理的な土地・建物の区分(按分)方法
売買契約書での土地・建物の区分は、その後の減価償却や税務処理に直結します。
内訳が曖昧だと後から区分する必要が生じますが、その際は税務署が納得する「合理的な基準」に沿うことが求められます。
ここでは代表的な3つの方法を紹介します。
契約書記載を根拠とした土地・建物の区分
売買契約書に土地・建物の内訳を直接明記して区分
売買契約書に土地と建物の価格の内訳を直接明記しておく方法です。
「土地○○円、建物△△円」と契約段階で内訳を定めておけば、後から按分に頭を悩ませる必要がありません。
当事者同士が話し合って決めた金額をそのまま反映できるため、最もシンプルで争いが起きにくい方法です。
契約書という一次資料に金額が残るので、後から按分方法で頭を悩ませることもありません。
消費税額からの逆算による建物価格の算出
この「契約書の記載を根拠とする」ケースとして、内訳の明記と並んで挙げられるのが、契約書に「消費税額」のみが記載されている場合です。
この場合、記載されている消費税額から建物の本体価格を逆算して割り出すことが可能です。
前述の通り、消費税は建物部分にのみ課税される性質を利用します。
例えば、売買総額が55,000,000円で、契約書に「うち消費税等 3,000,000円」と記載されているとします。
当時の消費税率が10%である場合、建物の税抜価格は以下の計算式で求められます。
建物の税抜価格 = 3,000,000円 ÷ 10% = 30,000,000円
建物の税込価格 = 30,000,000円 + 3,000,000円 = 33,000,000円
土地の価格 = 売買総額 55,000,000円 - 建物の税込価格 33,000,000円 = 22,000,000円
契約書による土地・建物の区分に潜む落とし穴と否認リスク
これらの方法には注意点があります。
記載した金額が客観的な相場や実態からかけ離れていると、双方が合意していても税務署に否認される余地が残ります。
逆に、買主に不利益をもたらす形で契約書の記載が尊重されてしまった裁決事例も存在します。
実際、当事者間で建物価格を低く設定した契約書が、そのまま税務署に有利な資料として採用され、買主の減価償却費が想定より少なくなってしまったケースが報告されています。
契約書に建物価格や消費税額を書き込むときは、根拠のない低い金額を記載しないよう慎重に判断する必要があります。
固定資産税評価額の比率による按分(シミュレーション付)
実務上、最も一般的に用いられているのが、土地と建物の「固定資産税評価額」の比率を使って按分する方法です。
固定資産税評価額は、各市町村が公的な基準に基づいて算定しているため、客観性が高く、税務署にも受け入れられやすいという特徴があります。
具体的な計算手順をシミュレーションしてみましょう。
| 項目 | 金額・条件 |
|---|---|
| 売買総額(税込) | 100,000,000円 |
| 土地の固定資産税評価額 | 40,000,000円 |
| 建物の固定資産税評価額 | 30,000,000円 |
建物の固定資産税評価額(税込相当) = 30,000,000円 × 1.1 = 33,000,000円
評価額の合計 = 40,000,000円 + 33,000,000円 = 73,000,000円
上記の条件で按分する場合、評価額の比率は「土地:建物 = 40,000,000:33,000,000 ≒ 54.79%:45.21%」となります。
この比率を売買総額に当てはめます。
土地の価格 = 100,000,000円 × (40,000,000 ÷ 73,000,000) = 54,794,521円
建物の価格(税込) = 100,000,000円 × (33,000,000 ÷ 73,000,000) = 45,205,479円
なお、建物価格の内訳は、税抜価格が 45,205,479円 ÷ 1.1 = 41,095,890円、消費税額が 4,109,589円 となります。
このように、公的な数値を基にするため計算が明確であり、売主と買主の間でも合意形成がしやすい方法と言えます。
不動産鑑定や時価に基づく比率按分
固定資産税評価額の比率を使うのが一般的とはいえ、状況によってはその評価額が実際の市場価格(時価)と大きくかけ離れている場合があります。
こうしたケースでは、不動産鑑定士の鑑定評価額や国税庁が公表する路線価などを参考に時価を求め、その比率で按分する方法が有効です。
特に、建物の老朽化が激しいものの固定資産税評価額が高止まりしている場合や、周辺の土地価格が急騰している場合などに用いられます。
信頼性のおける不動産鑑定書があれば、専門家による客観的な評価書が根拠として残るため、税務調査の場でも按分の正当性を主張できます。
ただし、不動産鑑定士への依頼には数十万円単位の費用がかかるため、税額への影響度合いと費用対効果を見極める必要があります。
不合理な按分による税務リスクと過去の判例
売主側の心理として、消費税の納税額を減らすために「建物の価格を限りなく低く設定し、土地の価格を高くしたい」と考えることがあるかもしれません。
しかし、市場価値のある建物を意図的に低くする極端な価格設定は、税務調査で追及されます。
不合理な按分を行った場合のリスクについて確認しておきましょう。
売主と買主で「望ましい按分」が正反対になる理由
ここで理解しておきたいのが、建物比率をどう設定したいかについて、売主と買主の思惑が真っ向からぶつかるという構図です。
買主は前述のとおり減価償却を厚くしたいため建物比率を高くしたい一方、売主が消費税の課税事業者である場合には、建物比率が高まるほど納めるべき消費税が増えてしまいます。
土地の売却部分には消費税がかからないのに対し、建物の売却部分には課税されるためです。
つまり同じ取引でも、一方が得をすれば他方が損をするという利益相反が生まれるわけです。
この対立を放置したまま進めると、契約段階で按分比率の調整に手間取り、交渉が長引く原因になります。
そのため、価格交渉の初期段階から按分の考え方を互いに共有し、双方が納得できる着地点を探っておくことが、円滑な契約締結の前提となります。
契約時には「土地○○円、建物△△円(うち消費税□□円)」といった形で明確に記載し、固定資産税評価証明書の写しなど按分の根拠となる資料も併せて保管しておくと安心です。
税務調査で否認された場合のペナルティ(追徴課税・重加算税など)
税務調査において、当事者間で決めた按分比率が「実態と乖離しており不合理である」と判断された場合、税務署によって価格区分が否認されます。
否認されると、国税庁が妥当と考える基準(主に固定資産税評価額の比率など)で計算し直され、不足していた消費税や所得税、法人税などを追加で納めることになります。
これを追徴課税と呼びます。
さらに、本来納めるべき税金に加えて、ペナルティとして「過少申告加算税」が課されます。
もし、税金を逃れるために意図的に契約書を改ざんするなど、仮装や隠蔽行為があったとみなされた場合は、より重い「重加算税」が課されます。
さらに納付の遅れに対する「延滞税」も発生するので、金銭的なダメージは相当なものになります。
【判例解説】固定資産税評価額による按分が否認された事例
「固定資産税評価額の比率を使えば絶対に安全」というわけでもありません。
これを如実に示すのが、東京地方裁判所での令和4年6月7日の判決です。
この事例では、一括譲渡された土地と建物の按分方法を巡り、国(税務署)側は「固定資産税評価額の比率」を主張しました。
これに対し納税者側は、裁判所が依頼した不動産鑑定士による「鑑定評価額の比率」が妥当だと主張し、両者は真っ向から対立しました。
裁判所は、固定資産税評価額の比率と鑑定評価額の比率の間に「相当な乖離」がある事実を重く見ました。
その結果、固定資産税評価額の比率を用いる合理性は失われていると判断し、鑑定評価額に基づく按分を支持しました。
この判例が示すのは、一律に固定資産税評価額を使うのではなく、取引ごとの個別事情や市場の実勢価格を反映させることが、法的に正しい区分につながるということです。
過去の裁判例・裁決に見る判断の傾向
上記の東京地裁判決は納税者の鑑定評価が認められた例ですが、これはむしろ例外的なケースと捉えるべきです。
過去の裁判例や国税不服審判所の裁決を全体として俯瞰すると、税務署が固定資産税評価額を根拠に按分したケースで、裁判所や審判所もその判断を支持する傾向が強く見られます。
つまり、固定資産税評価額による按分が、実務上の標準的な取り扱いとして定着しているのが実情です。
納税者側が独自に用意した不動産鑑定評価が認められた事例は、全体の一部に限られています。
したがって、鑑定評価に頼る場合には、固定資産税評価額が実態と著しくかけ離れていることを説得力をもって示せるだけの、相応の合理的根拠が不可欠となります。
鑑定評価を使いさえすれば通るというものではなく、鑑定士の実績や評価手法の妥当性まで含めて慎重に見極める必要があります。
リフォーム済み・築浅物件で建物比率が低く出てしまう問題
固定資産税評価額による按分は原則的な手法ですが、物件によっては注意が必要です。
特にリフォームを終えた物件や築年数の浅い物件では、この方法が実態にそぐわない結果を招くことがあります。
固定資産税評価額は概ね3年ごとに見直されますが、リフォームや増改築の内容が、評価額へ十分に反映されているとは限りません。
加えて、新築時点の建物の固定資産税評価額は、再建築価額のおよそ5〜7割程度を目安に算定される仕組みです。
このため、築浅物件では建物の評価額が実際の市場価値に比べて低めに出やすく、その比率をそのまま用いると建物への配分が相対的に小さく計算されてしまいます。
こうした場合には鑑定評価を検討する余地もありますが、前述のとおり否認された裁判例も存在するため、費用対効果を含めて冷静に判断することが求められます。
不動産の売却・譲渡時、購入(取得)時の税金計算ポイント
土地と建物の価格を正しく区分することは、リスク回避のためだけではありません。
売主・買主それぞれが、法律の範囲内で税金の負担を最適化するためにも重要な作業です。
売却時と購入時、それぞれの場面における税金計算のポイントを解説します。
購入時:取得費に含めるべき費用と建物の減価償却費計算
不動産を購入した買主にとって、建物の取得価額をいくらに設定するかは、その後の賃貸経営や事業の経費計算に直結します。
まず、物件の本体価格だけでなく、購入に際して直接かかった費用も「取得費」に含めることができます。
具体的には、不動産会社に支払った仲介手数料などです。
取得価額に含めた付随費用については、土地と建物の割合に応じて按分し、それぞれの取得価額に加算します。
建物の取得価額が高く計算されれば、毎年経費として計上できる「減価償却費」が大きくなります。
減価償却費が増えれば、その分事業の利益が圧縮されるため、結果として所得税や法人税の節税効果を得ることができます。
売却時:個人の分離課税と法人の総合課税による税率の違い
不動産を売却した売主は、売却益(譲渡利益)に対して税金を納める必要があります。
このとき、売主が「個人」か「法人」かによって、課税の仕組みや税率が大きく異なります。
個人の場合、給与所得などとは切り離して計算する「分離課税」が適用されます。
個人は物件の所有期間によって税率が変わり、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら「短期譲渡所得(税率約39%)」、5年超なら「長期譲渡所得(税率約20%)」となります。
一方、法人が売却した場合は、本業の儲けなどと合算して計算する「総合課税」となります。
法人の場合は所有期間による税率の違いはなく、会社の規模や全体の利益額に応じた法人税率(概ね実効税率20〜30%台)が適用されます。
どちらの場合でも、土地と建物の譲渡対価が正しく区分されていないと、正確な譲渡利益が算出できず、申告誤りの原因となります。
取得費が不明な場合に使える「みなし取得費(5%ルール)」
先祖代々受け継いできた土地や、数十年前に購入して契約書を紛失してしまった物件を売却する場合、「いくらで買ったか(取得費)」が分からないことがあります。
取得費が不明なままでは、売却金額のほぼ全額が利益とみなされ、多額の税金がかかってしまいます。
このような場合の救済措置として、「みなし取得費(5%ルール)」という制度が用意されています。
これは、実際の購入代金が不明な場合、売却した金額の5%を取得費として計上できるというルールです。
例えば、5,000万円で売却した場合、その5%である250万円を取得費として差し引くことができます。
ただし、実際の取得費が売却金額の5%以上であることが証明できる場合は、実額を用いた方が税負担は軽くなります。
過去の通帳の記録や住宅ローンの契約書など、購入金額を推測できる資料がないか、入念に探すことが大切です。
まとめ:専門家と連携し、根拠ある価格区分で不動産取引を成功させよう
不動産を一括で譲渡・取得した際の土地と建物の価格区分は、消費税や所得税、法人税の計算根拠となる極めて重要なプロセスです。
単なる事務作業ではなく、会社の財務や個人の手残りを大きく左右する要因です。
固定資産税評価額による按分など、一般的に合理的とされる方法は存在しますが、取引の個別事情によってはそれが否認される判例も出ています。
安易な自己判断で極端な処理を行うと、税務調査による重いペナルティを招きかねません。
正しい税務処理を行い、適法な範囲でメリットを得るには、不動産実務に精通した税理士や不動産鑑定士のサポートが欠かせません。
取引の早い段階から専門家と連携し、根拠のある合理的な価格区分を行うことで、トラブルのない安全な取引を実現しましょう。

- 税理士・元国税調査官
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税理士登録番号154309 東京税理士会日野支部
東京国税局の調査部に在籍し、大企業を対象とした税務調査を約10年にわたり担当。「税務署はどこを見て、何を指摘してくるのか」を現場で知り尽くした国税OB税理士として、税務署側の視点を踏まえたリスク対策と実践的なアドバイスを行っています。
その後、東京国税局を退職して税理士登録・独立開業。現在は不動産投資家・経営者への税務顧問、法人・個人の税務調査対応、不動産の相続・贈与・譲渡に関する申告業務を専門としています。
自身も区分マンション・アパートへ投資を行う現役の不動産投資家であり、机上の空論ではなく、収益と節税のバランス、資金繰りや投資判断まで踏み込んだ提案ができることを強みとしています。
不動産投資・税務に関する書籍・記事の執筆、金融機関やメディア主催セミナーへの登壇も多数。主な著書に『元国税の不動産専門税理士が教える!不動産投資 節税の教科書』(ぱる出版)などがあります。
